妖魔伝≫第二夜≫前
「ふぁ〜」 男は大きな欠伸をした。 影が短くなり足元に佇んでいる、そんな時刻になって彼は動き出した。 "あ〜あ…、今日も寝不足だ〜" 最近、パソコンを購入した光乃は最近インターネットと呼ばれるものにはまっていた。 こう見えても彼、光乃直軌は探偵なんぞと言う職業についている。 しかし、今日の彼を見れば分かるだろうが大して繁盛はしていない。そんな状態でも 彼が生きていけるのは2つの理由からだ。 それは今から向かう山鳥の巣という喫茶店のマスターと知り合いで、そこで"つけ" で食事ができると言う事…。 もう1つは彼が人外のものであるということである。彼は所謂、妖怪と呼ばれるもの で、さっき述べた山鳥の巣のマスターもそこに集まる仲間もまた妖怪である。 "カランコロン" 光乃が喫茶店のドアを開けると、ほぼ満席だった。 カウンター席には美男子、美女のペア。大神朗は雑誌を見ながらコーヒーを飲んで いる。斎藤みづきはカウンター越しにウエイトレスの一人の火瀬飛鳥と会話をして いた。 2組ある4人用のテーブル席には全身黒ずくめの男、時野影とサングラスをかけた男、 岩波省三が向かい合わせに座っていた。 「やあ、皆さん。おそろいで…。」 光乃が入り口であいさつをした。 "カランコロン" 「うぁっ…。」 「いった〜い!」 光乃が後ろを振り向くと、鼻の頭をさすりながら見上げている美男子、いや中性的な 美少女の目とあった。 「もう!光乃君たら、そんな所に突っ立てないでよ〜。」 そう少女、林晶子は自分から当たったのに関わらず文句を言う。 「ああ、ごめん…。」 「それより、皆!いいニュースだよ!なんとこの近くに妖怪がいるんだって!」 何時もと変わらず明るい晶子はカウンター席に駆け寄った。 「知ってますよ。」 「えっ!先生、知ってたの?」 晶子が意外そうな声でそう岩波に言った。岩波は医者をやっているのであだ名が"先 生"である。 「もちろん、ここにいるじゃありませんか。」 数秒間、時が止まる… 何時もながら、岩波のずれ具合もいい感じである。 「でさ、ここなんだけど。」 晶子は愛読書"La・Moo"の今月号の特集のページを開く。 「何々…。本当だ、直ぐこの近くで目撃されてるね。」 ちゃっかり晶子の直ぐ横に座った光乃が覗き込みながらそう言った。 「でしょでしょ!行こうよ、仲間になってくれるかもよ。」 「そうだな。行ってみるか。」 大神がコーヒーを飲み干す。 晶子の提案に何と二つ返事で現場に行くことが決定した。 まあ、山鳥の巣にいたことから分かるだろうが単に皆、暇してたのであった。 「ちょうど、よかった…。少し、店を閉める予定だったんですよ。」 「えっ?マスター、どうして?」 ウエイトレス姿の飛鳥がそう言う。 「私も使い魔を飛ばして情報を集めた結果、仲間になってくれそうな人物が見つかっ て今から合う約束をしてるんですよ。」 「あっそう、んじゃそっちはよろしくね。」 既に店から出かかっている光乃がそう言った。 「全く、落ち着きって物を知らないのかよ。」 時野のぼやきを聞きながら残りのメンバーも光乃の後に続いた。 一行がついた先はとある会社、氷室運行…。 この会社は主に冷凍商品を運ぶ会社で入り口からは引っ切り無しにトラックが出てい た。 他のメンバーはボケっとしている中、晶子が堂々と入り口から入ろうとする。 「ちょ、ちょっと!晶子ちゃん、勝手に入るのは…。」 みづきが晶子の肩を掴む。 「大丈夫、ここの社長さんとはチャット仲間なんだから…。」 晶子は自身満々にそう言う。 小首をかしげたみづきの予想は数秒後に的中した。 「離してよ!」 警備員に掴まれた晶子が暴れていた。 「やっぱり…。」 呆れ顔の一行…。 「だから、徹君に用があるの!」 「ですから、アポが無いと…。」 「アポ?何よ、それ…。ジャイアント馬場?」 「いや、そうじゃ無いよ、晶子ちゃん。」 警備員の後ろから丸いサングラスをかけた青いつなぎの男が来た。男の外見は20代半 ば、大神に負けず劣らずの顔立ちだった。何か格闘技をやっているのか、はたまたいた のか分からないがかなり体格がいいように見えた。しかし、その風貌に似合わずその口 はアイスキャンディーを頬張っている。 「彼女は俺の知り合いですから、いいっスよ。」 「社長、ですが…。」 「は?この人が?」 そう一行は胡散臭そうに彼を見た。それはそうだろう。彼の風体からすると長距離運送 のあんちゃん風だし、そもそも氷室運行はその筋ではかなり有名な大会社だ。その社長 がこんな若いなんて…。 「やっ!スノーマン君。」 「rinちゃん、今日は何の用だい?」 氷室は警備員に手で合図して持ち場に戻し、アイスキャンディーを口に含んだまま晶子の 方に歩いてきた。 「それがね…。」 勝手に話を進める2人… 「ちょっと、待って。勝手に話を…。」 「お〜ほっほっほっほ〜…。」 みづきが2人の間に入ろうとした時、何処からともなく高笑いが響く。 「あっ、あれ…。」 駐車場に停めてあったトラックのコンテナが開く。 「い、何時の間に俺んとこのトラックを…。」 コンテナが開くと色とりどりの照明が光り輝くステージになった。 「お〜ほっほっほっほ〜…。」 そこには腰に手を当て、高笑いを続けている女の子がいた。 「氷室さんっておっしゃいましたね…。」 「ん…、何スか?」 思考が停止していたメンバーは岩波の一言で我に帰った。 "いけない、しっかりしないと…。やっぱり、岩波さんってあんな状況下でも冷静沈着 な凄い人なのね。" みづきは岩波と言う人物に対する認識を改めようとした。 「私にもそれください…。」 岩波がアイスキャンディーを指す。 「ああ、いいスよ。」 氷室は何事も無かったように腰のポーチから取り出し皆に勧める。 "は〜、一瞬の気の迷いとはいえこの人を凄いと思った私って…。" ある意味において岩波は凄いのでみづきの認識は一応、間違ってはいないのだが…。 「わたくし私を無視するとはいい度胸ですわね!」 一人、黄昏ているているみづきをよそに肩で息をしながらさっきの彼女が駆け寄って きた。 「大丈夫ですか?お嬢さん…。」 その女の子に光乃が反応した。遠くで分からなかったが彼女はかなりの美人であった のだ。 まあ、イタリア人ではないのだが光乃の悪い癖で美人と見れば見境がないのである。 彼女は肩にかけた光乃の手を払いのけた。 「ふん!触らないで下さる?それより氷室様…。」 光乃にかけた言葉とはうって変わって彼女は猫なで声をだし、氷室の腕に手を回した。 「古月(ふるつき)君…。」 「いや、有倫(ゆうりん)って呼んで…。」 彼女は氷室の腕に顔を摺り寄せた。 「うらやましい奴…。」 光乃がそう呟く。一方の氷室は心底困ったような顔をしていた。 「おや?どうしたんだい?」 そこには意外そうな顔をしたマスターが立っていた。 「マスターこそ何でここに?」 「ここにさっき言った待ち人がいるんだよ。」 「それではあれはあなたが?古月君、大事な用があるから今日はこれで…。ここでは 何ですから…。さあ、行きましょう。」 ここぞとばかりに氷室は彼女の腕を引き剥がし、足早に山本の方に歩き出した。 「では、私の店にでも…。皆はどうする?」 考えている一行をよそに晶子は頬を膨らましている古月に声をかけた。 「古月さんって妖怪なんですか?」 「何をおっしゃってらっしゃるの?あなた…。」 「だって、ここに…。」 晶子は例の雑誌の特集ページを開いた。よく見るとそこには"怪奇!超高音波を出す美 女"とあった。 「はい、撤収!」 大神の号令で一行も氷室と山鳥の巣に戻る事にした。 「名前は氷室徹…。雪男ス。いや〜、お仲間がこんなにいたとは正直びっくりスよ。」 氷室は他のメンバーの自己紹介を聞いた後、氷室はアイスコーヒーのグラスを持ちな がらそう言った。 「ところでさ、あの女の子は?」 光乃がアイスティーのグラスに刺したストローを噛んだままそう言った。 「彼女はふるつき古月ゆうりん有倫…。古月財閥の一人娘スよ…。」 「古月財閥?あの有名な?」 みづきが思わず声を上げた。 「で、彼女との関係は?」 ワイドショーの記者よろしく光乃はさらに質問を続けた。 「彼女とは都の柔道大会で出会ってそれから…。」 「ふ〜ん…。」 「別にやましい事は無いっスよ!本当だって〜!」 「またにぎやかになりましたね〜。」 そう他人事のようにマスターは呟いた。 その頃、件の有倫はというと…。 「きっと、氷室様はここらへんにいらっしゃるに違いないわ!氷室様〜!」 「お嬢様…。お待ちください。」 「煩いわね。さっきのは氷室様には不評だったんだから、今度こそは…。」 登場に命と金をかける有倫は黒子を引き連れて山鳥の巣のある通りとは別の通りを右 往左往しているのであった。
暗い部屋の中、一人の少女が手鏡を覗いている。ひどくやつれた顔を自分の黒髪が半分 以上隠していた。 「こんな物…。」 少女は手鏡を壁に投げつける。そして、自分の手首に目を落とす。 そのままベッドに座り込んでいた少女だったが、ふとノートパソコンのランプが点滅し ている事に気付く。 「メール?誰から…。」 彼女はノートパソコンを開き、少女は無言でそれを読む。 「これで私も…。」 少女は不気味な笑みを浮かべながらキーを叩いた。 「あっ、大神さん。おはようございます。」 寝ぼけ眼で食卓に来た大神を出迎えたのは彼が居候している空手道場の娘の天羽流水 音(あそう・るみね)である。 ドイツ人で世界的に有名なヴァイオリニストの母親と空手道場を開いている日本人の 父親を持つハーフで彼女は母親の血を色濃く受け継いでいるようで、金髪にハシバミ色 の瞳と日本人離れした外見であった。 「やあ、おはよう…。」 彼女が作ったのかテーブルには純和風の朝食が上がっている。 「いただきます。」 2人は食事を始めた。流水音の母親は世界中で演奏をしている為、家には年合計でも1 月やそこらしか居らず、父親はこの時間は朝稽古の真っ最中であるので自然と大神と2 人っきりで朝食を取ることが多い。 「ねえ、大神さん。今度の土日って暇ですか?」 「土日?まあ、あいてる事はあいてるけど…。」 「じゃあ、うちの学園祭、見に来ませんか?で、その…。」 「ん?」 大神は何時とは違う流水音を不思議に思った。 「あの…、コンテストがあるんです。」 「何の?」 「あの、美女コンテストっていうんですか?あの、そんなものを学園祭でするんですよ。 いや、別に出るつもりじゃなかったんですけど、その、友達が勝手に…。本当は困って るんですけど…。」 言葉とは裏腹に満更でもない雰囲気の流水音である。 「で、それを…。」 「見に来いと?」 「あっ、嫌なら、いいんですけど…。」 「興味ないな…。」 「そうですか…。」 流水音は残念そうに下を向いた。 「だってそうだろ?結果が見えてる。」 「そうですよね…。」 「君の勝ちって…。」 「えっ…。」 「でも、折角の君の晴れ舞台だ。見に行くよ。」 「本当ですか?約束ですよ!」 正に飛び跳ねる勢いで流水音はそう言った。 それから数時間後 「ほら、しゃきっとしなさいよ!」 カウンター席に突っ伏している光乃の前に晶子はコーヒーをおく。 「寝み〜。」 「呆れた…。限度ってもの知らないの?」 「いや、ほら…。次から次に面白いHPがあってさ〜。」 「いいな、お前は暇で…。」 端のカウンター席で新聞を読みながら時野がそう言う。 「お前だって暇そうじゃん。」 「俺は最近、忙しかったんで今日は休みにしたんだ。」 そう言う時野…。決して負け惜しみで言ったのではなく実際に時野は休みにしていた。 「そんなに忙しいんだったらこっちにも回せよ…。」 「馬〜鹿…。この商売は信頼が最も大事なの…。」 「何だよそれ…。」 光乃が睨む。 「言葉通りだよ。お前、日本語も分からなくなったのか?」 「いや〜、今日も仲がおよろしい事で…。」 にこやかにコーヒーを飲みながら岩波が言った。 「あっ、そうだ…。ねえ、今度の土日って暇?」 晶子がトレーを抱きかかえてそう言った。 「ん〜、何故?」 時野は新聞から目を離し晶子を見た。 「その日、うちの学校の文化祭なの。」 「文化祭(ぶんかさい)…学校での学習や、クラブ活動などの成果を発表する事を中心 にした行事。」 うつろな目で光乃が呟く。 「何、あれ…。」 「ほっとこう…。」 横目で見ている晶子に時野はすばやく答えた。 「それで、うちのクラブでお化け屋敷を作ったの。」 「へ〜、お化け屋敷か…。ちょっと待て、まさか俺達にそこで働けと?」 「まさか…。今回はこの前、知り合いになった金子先生に手伝ってもらった自信作なの。 それを見に来て欲しいんだけど…。」 金子とは前に学園七不思議の時(第一夜参照)に出会った妖怪であり、彼は美術教師で もある。 「そうだな〜。仕事が入んなきゃいけるけど…。」 時野がそう言う。 「僕も〜。」 欠伸をかみ殺しながら光乃がそう言う。 「ふ〜ん。残念だな〜。」 「何が?」 半分寝ながら光乃が返事をする。 「ミス研の部員に紹介しようと思ったのにな〜。」 晶子は光乃の耳元に近寄っていった。 「ピチピチの女子高校生なんだけどな〜。」 光乃の耳がピクリと動く。 「かわいい子達ばかりなんだけどな〜。」 「晶子ちゃんがそうまで言うのなら行ってあげようかな…。」 光乃はゆっくりと起き上がりそう言った。 「え〜、いいよ。仕事しなきゃ…。」 乗ってきた光乃に対して手のひらを返すように晶子は態度を変えた。 「いや、いいって…。」 「でも、やっぱり…。」 「ごめん…。行かせて下さい…。」 「ふふん…。最初からそう言えばいいのに…。」 光乃をからかっていた晶子は満面の笑みを浮かべた。 「勝負ありですね…。しかし、晶子ちゃん…。ピチピチはどうかと…。」 今の勝負に対してそう岩波はコメントした。 「パンフレット一部100円で〜す。」 校門のテントから声がかかる。 「一部、下さい。」 みづきが財布から硬貨を出す。 「おい、早く行こうぜ。」 きょろきょろと辺りを見回す光乃…。 「お前…、お上りさんじゃないんだから…。」 時野は相変わらず光乃には冷たく言い放つ。 「君さ、急がしいんじゃなかったの?」 光乃はふてくされながら時野の方を向く。 「お前、一人に行かせる訳にはいかないだろ。」 「何で?」 「説明して欲しいか?」 時野が光乃に詰め寄る。 「お前一人にしたら目立ってしょうがないだろ!」 「もう十分に目立ってますけどね。」 何時の間に買ったのかフランクフルトを齧りながらそういった。 「へ?」 光乃と時野は周りを見た。周りは何時の間にか人だかりになっていた。 「おい、見ろよ…。何かやるらしいぜ。」 「何だ?アクションショーでも始まるのか?」 「は〜、他人のふり、他人のふり…。」 みづきはパンフレットを開き、ミス研の場所を探した。 「ったく…。」 時野はぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。 「いや〜、大変でしたね〜。」 本当にそう思っているか疑問に残る口調で岩波が言う。 「お前のせいで俺まで恥をかいた…。」 「僕のせいか?僕の…。」 光乃が抗議する。 「ほら、もう着くわよ。」 こういったときには頼りになる姉御肌のみづきである。 2−B この部屋がミス研の部屋である。 「さてと、晶子ちゃんは…。」 辺りを見回したが人気が無い。 「どうしたんだろ…。」 「とりあえず、入ろうぜ。」 光乃がドアに手をかける。すると、目の前に机に伏している女の子がいた。 「おい、大丈夫か?」 光乃が駆け寄り、女の子を揺すった。 「ん…。」 単に眠っていたようで女の子は眠そうな目をこすりながら起き上がった。 「あっ、いらっしゃいませ…。」 女の子は寝ボケたままそういった。 「あの〜、晶子ちゃんは?」 「晶子先輩?ん〜…。」 みづきの問に女の子は顎に指を当て考えている。 「全く!何なのよ!」 教室の外から怒鳴り声がした。 「この声は…。」 一行が振り向くとちょうど、ふくれ面の晶子が教室に入ってくる所だった。 「あっ、皆!ちょっと聞いてよ!」 晶子は一行を見ると早口で話し出した。 「学祭委員がこの出し物、中止って言うのよ!それで頭きて文句を言いにいってたんだ けど…。」 「そうだ!晶子先輩なら学祭委員に文句があるっていきました〜。」 受付の女の子が声を上げた。 「ちょっと、亮子ちゃん!他の子達は?」 「え〜と、皆〜、何処かにいくって〜…。」 「何処に?」 「ん〜…。」 亮子は顎に指を当ててまた考え出した。 「それより晶子ちゃん、どうして中止になったの?」 みづきが聞くと晶子は思い出したかのようにまた怒り出した。 「それよ!こっちは学園祭だからって力を入れてよりリアルに仕上げたのにさ…。」 「もしかして…。」 「たかが気絶者続出ぐらいで…。」 「ちょっと待って!それって大問題と思うけど…。」 思わず突っ込むみづき…。 「何で?それだけ精巧に作られているっていうことを評価して欲しいのに…。」 暫く、教室内をうろうろしていた光乃だが急に立ち止まった。 「どうした?光乃…。」 時野がその異変に気付く…。 「聞こえる…。」 「は?」 「聞こえる!」 そういって光乃は教室を飛び出した。 「おい!」 時野がそれを追って教室を出たがもう影も形も見えなかった。 「何なんだよ、あいつ…。」 教室の前で佇んでいる時野の後ろから晶子の声をした。 「追うわよ!」 「追うって…。何処いったか…。」 「あいつの行くところは分かってるんだから…。」 晶子は握りこぶしを作って意気込んだ。 「あ〜、思い出しました〜。体育館です〜。ミスコンに出るって〜。」 一行が教室からいなくなってから数十秒後、亮子がそう言った。 「お〜!ここか!」 光乃が体育館前に立つ。 「一寸、光乃君!」 光乃が後ろを振り返るとそこには仁王立ちの晶子と呆れ顔のみづきと時野、そしてたこ 焼きを頬張る岩波がいた。 「うっ…。どうしてここが…。」 そう本気で光乃が問い掛ける。 「そんな事はどうでもいいでしょ!問題なのは意気消沈しているこのあたしを差し置 いてこんな所に来るあなたの方が問題よ!」 そう晶子は光乃を指さした。 「え〜と…。それは…。」 何時、意気消沈していたのかといったツッコミも思いつかないくらい動揺した光乃が言 い訳を考えていると、急に体育館内が騒がしくなった。 「何?」 怒っていた晶子だが好奇心を押さえられなくなり体育館を覗き込む。 「さあ、エントリーbT 角田恵さんです。」 ステージにいる少女は客席に愛嬌を振りまきながら前に出た。 「恵ちゃ〜ん!」 客席の男子生徒から歓声が上がる。 「あれ、恵じゃん…。」 「知り合い?」 「うん…。ミス研を一緒に作った子…。」 「大人気ですね。」 「うん…。」 晶子の表情が暗くなる。 「あれ?光乃君がいない…。」 みづきが辺りを見回す。 「恵ちゃ〜ん!」 すると最前列から光乃の声が聞こえてくる。 「ほっとこう…。」 全員の意見は決定した。 その頃、別の高校の野外特設ステージ上に8人の少女が並んでいた。 「さて、これより審査結果の発表です!優勝は…。」 司会者の男子生徒がマイクを握り締めそう叫ぶ。 “ドコドコドコドコ…” 典型的なドラム音が鳴り響く。 「エントリーbU 中西裕子さんで〜す!」 客席から男子生徒の歓声が上がる。 「残念だったな…。」 うつむいたままステージを降りた流水音を出迎えたのは人物がそういった。 「大神さん…。」 「こういった物は裏で最初から優勝者が決まってるもんさ。ほら、優勝商品を渡さない ように…。」 大神は頬を掻きながらそういう。 「ありがと…。」 「え?」 「ううん。何でもない。そうだ、残念会しようよ!大神さんのおごりでさ。」 「おい…、俺はそんなに金が…。」 「大丈夫、学祭の屋台は安いから。」 大神は流水音に引っ張られるようにその場を去った。 「…。」 その光景を隠れて見ていた少女がいた。 「中西さん!こっちで写真撮影を…。」 「分かってる…。」 裕子は写真部の男子生徒にそう答え、その場を去る。不思議な香りを残しつつ…。