ある日の朝、佐和さんが倒れてしまいました。
 私一人では、どうすることもできません。
 お医者様には私が見えませんから。
 困っていると、いつも一番に来る正吾さんと琴乃さんが遊びに来ました。
 いつもなら佐和さんが玄関に出ていくのですが、その日は私が初めて戸を開けました。
 二人は驚いていましたが、私が事情を話すと、
 すぐにお医者様やいつも遊びに来てくれるみんなを呼びに行ってくれました。
 村中の子ども達と、幾人かの親御さんが佐和さんの家に集まるまで、
 そう長く時間はかかりませんでした。
 お医者様は、

 「今夜が峠です。」

 と、私たちに告げました。
 その日の晩、佐和さんはうっすらと目を開けました。
 心配そうに見つめる子ども達をぐるりと見回して、最後に私を見ました。

 「あなたが彩さんね。」

 私は「はい」とうなずきました。

 「みんなを連れてきてくれてありがとう。」

 佐和さんがしっかり私を見たのは初めてでした。
 「最後にお礼が言えるなんて、なんて私は幸せ者なんでしょう」

 そう言うと、佐和さんはもう一度みんなを見回して、静かに、でもしっかりと

 「ありがとう」

 と、言いました。
 それからほほえむと、ゆっくりと目を閉じました。





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