**ここにいる幸せ**
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からんころんからん。 これは、正吾さんの下駄の音。 からからから。 これは、琴乃さんの下駄の音。 今日も二人は遊びに来てくれます。 「あーやーちゃん、あーそーぼ」 正吾さんと琴乃さんはいつも仲良しで、一番に佐和さんの家にきます。 それから二人でぴったり声を揃えて私を呼びます。 しばらくすると、佐和さんが「はいはい」と言いながら、 玄関へ二人を出迎えに行くのです。 だけど、今は佐和さんはいません。 二人は佐和さんがいなくなってしまった後でも、毎日私に会いに来てくれます。 私と遊んでくれた後、家の中のお掃除をして、佐和さんに挨拶をして帰っていきます。 佐和さんはこの家に一人で暮らしていたおばあさんです。 お子さんを五歳の時に病で亡くし、五年前、旦那様もお年の為に亡くなられて、 お一人になってしまったそうです。 それでも、佐和さんは明るくて、近所の子ども達に話しかけたり、 一緒に鬼ごっこをしたり、お手玉やまりつきをしたりしていました。 腰を痛めて、あまり動けなくなってしまってからは、 家の中でお話を作って聞かせていました。 少しずつ、遊びに来る子どもが少なくなっていきました。 ある年のお盆の時期のことです。 佐和さんが、ご自分のお子さんに似せた女の子のお話を作りました。 怪談話でした。 ところが、怪談話のはずなのにとても楽しいお話でした。 佐和さんの家に来ている子ども達と一緒に遊ぶ女の子。 名前は「あや」と言いました。 でも、大人には見えないのです。 楽しそうにみんなが聞いていると、太助さんが言いました。 「ほんとだ。あやちゃん、ここにいるよ」 ふと気がつくと、私はみんなに混じって佐和さんのお話を聞いていました。 佐和さんは初めは驚いていましたが、にっこりほほえんで言いました。 「おやおや、呼んでしまったようだねぇ。お休みになっていたでしょうに、ごめんなさいね」 まるで私が見えているかのように、深々と私の方を向いて謝りました。 でも、よく考えてみると、そこにいる子ども達がみんな私の方を向いていたからわかったのですね。 その日を境に子ども達は、私に会いに来るようになりました。 初めは怖がっていた子も、みんなが楽しそうにしているのを見て、 「あや」に興味をもって、遊んでくれるようになりました。 佐和さんは、「あや」と仲良しのおばあさんとして、子ども達の間で人気者になりました。 前よりもたくさんの子どもが来るようになりました。 子ども達が私を呼びに来る度に、佐和さんは笑っていました。 それから、みんなに「あや」という女の子が本当にいるかのように、お芝居をするのです。 「あや、みんなが遊びにきたよ。行っておいで」 佐和さんがそう言いながら、玄関を開けると、私は外に遊びに行きます。 鬼ごっこをしても、私は鬼になってばかりでしたが、三回続けて鬼になると、 普段は乱暴者の将太さんがかわってくれました。 鞠つきは佐和さんに教えてもらった歌が大好きでしたので、 たくさん練習してできるようになりました。 鞠付き名人の節子さんにはかないませんでしたが。 竹馬をやったり、おままごとをしたり、たけとんぼをとばしたり、 雨の日は佐和さんのお話をきいたり、本当に楽しい毎日でした。 佐和さんが子ども達と遊ぶ時間が少なくなって、寂しそうなのが気がかりでしたが、 「あやが来てから、みんながまた戻ってきてくれたよ」 と、言って下さいました。 少し安心しました。 |