突入! ワルワ団

「ドラグマン、ご指名ですって」
 呑気な口調とは裏腹に、ユーナイアはグリエルの隣に立ち、小さく言葉を交わす。間をおかずにタッチパネルが叩かれ、新規ウィンドウで検索結果が現れる。
「今あるのはこの車らしいな」
「借りていきましょう。先生、運転できますよね?」
「むぁっかせなさい」
 持ってるのは二輪の免許だけどな。という心の呟きは、もちろん誰にも聞こえない。相手は、目立ちたがりのウェーラーと物事面白くなくてはダメだという信条の根府川である。できないと言うわけがなかった。
 かくて、微妙に生命の危険を感じつつも一行はほどなくして街に帰り着いた。怪人がいる場所は、ジャスティスンの基地で把握済みだ。広場の外で車を降り、人垣を縫って中央に踊り出る。
「さあ、どうしたドラグマン! 早く出てこないと全員石になるぞ!」
 叫ぶ怪人が視界に入る。広場には、黒づくめの戦闘員と、石化した人々。広場に踏み出すドラゴンマーク達の中、ウェーラーだけが噴水の影へと身を潜めた。いや、あおい・ディーテ・ミヤの3人も、広場の中にまでは踏み込まなかった。『ドラグマン』としてそこに立つことに違和感が拭えないようである。ディーテに至っては、先刻話を振った人にまた出会い、「ドラグマンがなんとかしてくれますよ!」と再び観客モードに突入している。
 そんな背後の様子を気にかけることなく、グリエルが剣を抜きざま、一歩踏み出す。
「そこまでだ! 罪なき民草を石にするなど言語道断。神の使徒たるオレ様が成敗してくれる!」
 ドーンッ!
 ちゃっ、と剣を構える。瞬間、背中に赤い煙が爆発した。派手な音が広場に響く。
 噴水の影に隠れたウェーラーが、ぐっと親指を立てた。
 続いて、ユーナイアが隣に立てば。
「我は標(しるべ)。誤った道を進む者に、月光の導きを!」
 バーンッ!
 杖についた三日月の飾りが、新たな爆煙にシルエットとして浮かび上がる。さらに、グリエルを挟んで反対側。
「えーっと……どうしよう?」
 ……ばーん。
 出てきたものの、クリスティーナが困ったように頭を掻いた。ずるっとこけたウェーラーの手から、間抜けなタイミングでピンクの煙玉が爆発する。楽しんではいるものの、戦隊ものの知識なんて、クリスにはない。ぱっと決め台詞なんてそうそう浮かぶものではないのだ。
「藤原ぁ〜。せっかく作ったんだぞ〜?」
 やけに悲しそうな声が噴水の影から聞こえてきた。
「何やってんだか……」
「あ、でも……ちょっと、ちょっとだけ……楽しそうかも」
 ため息をつくあおいの隣で、何かがうずいたようにディーテが呟いた。
「よし、天野。こいっ!」
 新たな煙玉を構えたウェーラーの手招きが見える。

「来たな、ドラグマン! ……む? 人数が足りないようだな。それで勝てると思っているのか?」
 怪人がにやりと笑い、手を振り上げた。同じ動作で戦闘員達が銃を構える。
「ふん、貴様のような奴、オレ様だけでも充分だ!」
 グリエルの台詞を合図に、戦闘が開始された。

 1体ずつは確かに弱いだろうが、相手は多数。しかも石化の光線銃を持っている。有利とはいえないように見えた。特に、羽根を広げたクリスティーナは的として大きい。のわりには緊張感が少ない気もする。なぜか、楽しそうに映るのだ。
「私、行ってきます!」
 愛剣『ルシファー』を抜き放ち、ディーテが白と黒の翼を羽ばたかせた。
 すぐそばにいた群集から「おお」と声があがる。
「ふふ、ディーテちゃんてばおいしい登場ね」
 銀の髪をなびかせて杖を振るいつつ、ユーナイアがほくそえんだ。一歩退いた空間に、『ルシファー』がきらめく。
「お手伝いします!」
 パーンッ! と青い煙が炸裂した。いよっしゃあぁ! と噴水の影で拳を握るウェーラー。
 そして、やはり雑魚は雑魚であり、怪人すらもドラゴンマークの敵ではなかった。ディーテが飛び出したときに注目され、なし崩し的にあおいとミヤが参戦すると、あっという間に戦闘員は全滅、傷ついた怪人を尋問するという状況になっていた。傷のせいか、石化していた人間達はいつの間にか元に戻り、この場にはもういない。

「基地へはこれで移動するんだ」
 ばっさりとつけられた傷から血が出ることはないが、ずいぶんと痛そうだった。すっかり戦意を喪失して水晶球を差し出す。軟弱な怪人である。
「ほ、本当に命は助けてくれるんだろうな?」
「約束は守るわ」
 だって、あなたはジャスティスンに倒されないといけないわけだし。
 眩しいほどの笑顔の裏で、冷めたことを思うユーナイア。けっこう酷い。
「じゃ、これはもらうわよ?」
 水晶球を受け取り、一歩移動してやる。その隙間を、怪人は這うように抜け出すと、一目散に逃げ出した。
「放っておいていいんですか?」
「また悪さをするようなら、今度こそジャスティスンに倒されるわよ」
「そのためには、まず我々がディーヴァを倒さなくてはな。行くぞ、みんな!」
 グリエルが叫ぶのにあわせて、ユーナイアが水晶球を右手で掲げた。
「ワルワ団、秘密基地へ!」

「……そのポーズ、意味あるの?」
「演出よ、え・ん・しゅ・つ♪」


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