鏡の少年 |
気がついたら一人きり、人気のない公園に立っていた。本当に、気がついたらそこにいたのだ。自分でもわけが分からなくて、あたりをゆっくり見渡した。
空は鮮やかなオレンジ。東の方は群青にグラデーションをはじめていて、今が夕方であることを教えてくれる。誰もいないベンチ。半分崩れた砂の山。風に揺れるブランコ。全てが長い長い影を落としてる。
知らない景色。もっとも、他のどんな景色も記憶にはないのだけれど。
ここは、どこだろう?
どうして、こんなところにいるんだろう?
わからない。
でも、不安とか、そんなものはなくて。
なんでだろう。
――たぶん、僕は今、嬉しいと思ってる。
「消えた、だと……?」
肘掛つきの椅子に深々と腰掛けた白衣の男が、眉をひそめた。机をはさんで立つ、やはり白衣の青年が手にした書類から顔を上げる。
「は。現状では推測でしかありませんが、この数値の低下は尋常ではありません。そして“ダブル”出現能力の喪失」
「喪失ではなく、すでに別の場所に出現している……そういうことかね」
「おそらく」
やっかいな内容だった。男は舌打ちして報告書に目を落とす。
「“ツイン・ランサー”を呼んでこい。必ずヤツを連れ戻すのだ」