また会える日まで

「ごめん、かおる。俺、用務員室に呼ばれちゃったから、ちょっと遅れていくよ」
「あぁ、わかった、こっちは俺に任せとけ」
「うん、またあとでな」
りょうが足早に去っていった。
なんだか、前にもこんなやりとりをしたような気がする。
「こら、お前ら、さぼってないでさっさと練習始めるぞ。容赦しねぇからな。」「うわぁ、部長が本気だ!」

あのとき、もう2度とりょうに会えなくなるなんて思わなかった。

――――――――――――

練習が終わりに近づいたころ、急に悪寒がした。それは、今まで感じたことのないくらい強烈だった。

「お疲れさまでした。」
練習が終わった。りょうは戻ってこなかった。もしかして先に家に帰ってるのかもしれない。片付けをしていると、先生が武道場に入ってきた。
「柔楼寺、ちょっと来てくれないか。」
嫌な予感がした。

先生に連れられて武道場を出ると、車に乗せられた。
「先生、どこに行くんですか?」
先生はしばらく黙っていたが、やがて深刻な顔をしてこう言った。
「落ち着いて聞いてくれ。お前の弟が…交通事故で死んだ。」

自分の耳を疑った。りょうが、交通事故で死んだ?
嘘だろ。そんなこと信じられるわけがない。
「う…そだ…」

車が病院に着いた。俺は走った。
病室につくと、親父とお袋が泣いていた。りょうは、ベッドの上で青白い顔で眠っていた。
顔に触れてみる…冷たい。涙がこぼれ落ちた。
「りょう…!なんで!嘘だよな…起きろよ!なぁ、りょう!」
何度もりょうを呼んで泣き叫んだ。
ずっと…ずっと一緒にいるって約束したじゃねぇか。俺たち2人で道場継ぐって約束したよな?
なのに…どうして…!
なんでだよ、りょう…

――――――――――――

それから俺は、りょうのいない部屋で起き、1人で学校に行って、りょうのいない教室で授業を受け、りょうのいない空手部で練習し、りょうのいない道場に帰る生活を繰り返した。今までずっと一緒だったりょうがいない。心に巨大な穴があいているような気がした。夜はほとんど眠れない。空手の練習にも力が入らない。

俺にとってりょうは、生まれたときからずっと一緒の大事な弟で、最高のライバルだった。でもそれだけじゃない、単なる弟とかライバルとか以上の何かを、ずっと昔から感じていた気がする。

連日の疲れがたまっていたのか、ある日、道場で練習中に気を失って倒れた。倒れたまま、俺は深い眠りについてしまった。

夢の中、もう一人の俺を見た。どこかで見たことのある町で、今よりちょっと小さい中学生くらいの俺の横に、同じ年くらいのりょうがいた。りょうはぼろぼろで、小さい俺に向かって必死に話している。何を話しているのかはわからない。夢の中の俺は黙って聞いていた。

場面が変わり、夢の中の俺は、小学生くらいの小さな知らない女の子と話をしていた。今度は俺が何かを必死に頼み込んでいるようで、しばらくして女の子が頷いた。

また場面がかわる。町、いや、世界が今にも崩れそうな中、夢の中の俺は、不思議な力と空手で化け物と戦っていた。目の前で、夢の中の俺が傷ついて倒れた。突然、俺の耳元で声がした。
「まだ戦えるか?」
俺は思わず頷いていた。

辺りが光に包まれたかと思うと、家の道場に戻ってきていた。
「夢か…?」
ふと、左腕を見ると、ドラゴンのような紋章がついていた。
「なんだ…これ。」
よくわからないけれど、さっきまでにはなかった力があるような気がした。
「りょう…?」
無意識に、りょうを呼んでいた。

俺は、また倒れて夢の中に引きずり込まれた。
今度はさっきの場所とは違い、建物の中にいた。
目の前には、背中から翼を生やした女の子と、ポニーテールの女の子、光をまとった銃を持つ女の子、そして、りょうがいた。
「りょう!」
俺の声は届かないようだ。4人は、ロボットと、ロボットみたいな女と戦っていた。
次の瞬間、ロボット女にりょうが斬られた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

目が覚めた。あれは夢じゃない…。りょうは事故で死んだんじゃない。あいつと戦って斬られたんだ…。なぜか確信があった。全身汗びっしょりで目には涙が溢れていた。
でも、どうしてりょうは戦ってたんだ。

ふと、言葉が浮かんだ。さっきの夢の中で聞いたのかもしれない。
『かおる、俺、この世界を守るために―――――になって戦っているんだ…』

俺には話してくれなかったけれど、りょうには、守りたいものがあった。そのためにりょうは戦って…死んだ。
あいつは昔から、迷惑かけたくないからって、一人で抱え込むやつだった。俺はまた、何の力にもなれなかった。俺は、りょうを守れなかった。

俺は…りょうが守りたかったものを守りたい。
あのりょうでも死ぬくらいだ。俺だって死ぬかもしれない。でも、覚悟はできている。死んだら、そのときはりょうに会えるかもしれない。その時まで、俺は戦い続ける。

りょうが守りたかった世界を守るために。


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